産業機器メーカー様 統合報告書リニューアル提案

上場廃止後の、統合報告書のあり方とは?
近年、当社で急増しているのが「統合報告書」や「IRサイト」関連のご相談です。IRツールについては多くの場合、専門のコンサルタントの監修の元、その企業のIR方針に基づいて制作が進められます。原稿は社内で用意されたものを外部のプロが編集・リライトして掲載し、インタビューや座談会などの特集記事のみ外部への完全委託となるケースが大半。コピーライターの出番はあまりないのですが、「明確なコンセプトをつくりたい」「いわゆる統合報告書とは別の方向性を目指したい」というご相談を受けるようになりました。今回は、その中でも特にユニークだった「上場廃止後の統合報告書のあり方」について考えた事例をご紹介します。
ある産業設備メーカーが上場廃止を決定
今回のクライアントは、プライム市場に上場している産業機器メーカー。某巨大グループの1企業で、2026年に100周年を迎えます。そして、グループの一部再編により上場が廃止されることに。大きな節目を迎えます。
この企業は、これまで統合報告書を継続して発行。当然ながら株主・投資家に企業価値を説明し、投資家を増やすことを主な目的として作成してきました。
この点を踏まえて、2026年度の統合報告書を提案してほしいという依頼が某総合印刷会社にあり、コンセプトメイキングについて、当社に白羽の矢が立ちました。

上場廃止=報告書のターゲットと役割が変わる
上場廃止によって、このクライアントは株価を通して市場と対話するという「形式的な関係」を失うことになります。しかし、企業として社会と信頼を築いていく営みは、むしろここからが重要ではないでしょうか。
上場廃止後は、主要な読者層も、報告書の役割そのものも、根本的に変わります。まず、投資家が報告書に目を通す機会はほぼゼロになります。では、統合報告書は誰が読むものなのか。そして、どんな役割を担うべきなのか。
この点をクリアにしないと、統合報告書を作成する意義がなくなります。これまで通りの報告書にしてしまったら、発行意義が完全に見出せなくなり、おそらく2027年は発行中止となるでしょう。でも、それでいいのでしょうか。
非上場の企業でも、統合報告書を作成している例は多くあります。そしてその大半は、「サステナビリティ・レポート/CSR報告書」の延長として作成しているようです。
この方向も、違うのではないか…と当社は考えました。では、どうすればいい?
非上場企業の統合報告書=コミュニケーションツール
答えは簡単でした。上場企業の統合報告書は、投資家とのコミュニケーションツール。ならば非上場企業は、ステークホルダー全体に対するコミュニケーションツールとして作成すればいい。ただし、単純な会社案内ではなく、「経営戦略」の視点が必要です。具体的には、「事業を通じた社会貢献(CSV)」と、「事業以外の活動を通じた社会貢献」に関する情報を、わかりやすく記載する必要があります。
端的にいえば、上場廃止とは、「ステークホルダー・コミュニケーションの再定義」の、絶好の機会なのです。
このクライアントの場合、統合報告書をリニューアルすることで、企業の信頼を支えてきたIR活動に、新たな役割や目的を見出すことができるようになるのではないでしょうか。IRという枠を超えた、新しい方向が見えてくるはずです。
この問いを軸に、統合報告書の新しいあり方を提案しました。

「共有・共創」を提案のコアに
「株価」に頼らず、自社の価値を伝えるには、どうすればいいか…。我々のチームは「共有・共感・共存・共創」にこそ、そのカギがあるのではないかと考えました。
まず第一に、このクライアントはグループ資本100%となるため、グループ企業における役割がより明確となり、グループ各社との結びつきがより強固になるはずです。おそらく、新たな共創プロジェクトがいくつも誕生するのではないでしょうか。
そして、社員との関連性も変わるでしょう。「企業グループに属しているものの、独自路線を走ってきた企業の社員」という認識から、「より大きなビジョンをもった企業グループの一員」という、新たな認識が芽生えると思います。
同様に、地域とのつながりも大きく変わるでしょう。
しかし、この変化を促すには、経営側から各ステークホルダーに対しての「語りかけ」や「説明」、「提案」、「勧奨」などが必要になります。
つまり、今後の統合報告書が目指すべきは、「報告のためのツール」という枠を超えた、「多様なステークホルダーと想いを共有し、共に未来を共創するためのメディア」ではないでしょうか。これが、我々の結論です。
コンセプトは、「伝えるから、つながるへ。」
実際の統合報告書のリニューアル提案においては、この考えを端的に示すためのコンセプトワードを設定しました。それが、これです。
「伝えるから、つながるへ。」
この一行には、「報告から共創へ」という企業コミュニケーションの進化を込めました。数字や実績を伝えることに留まらず、行動の背景にある想い・哲学・関係性、そしてそれらに基づいた「挑戦」や「行動」を、より魅力的に語ることのできる報告書へ――。
つまり、上場企業としての形式を超えた、「社会とつながり、信頼される企業」としての物語を紡ぐための、新たなツール。これがこのクライアントにおける統合報告書の、新たな役割です。
全体構成案
全体構成は、一般的な統合報告書の流れをある程度意識しつつ、非上場企業として不要な情報は削除し、ステークホルダーからの「共感」を得やすいコンテンツを積極的に盛り込みました。また、「100周年」という要素も考慮して構成しました。以下は、その章立てです。
※実際の提案で用いた表現から変更しています。
- イントロダクション…コーポレートメッセージ、理念
- 現在地…企業概要
- ヒストリー…「社会課題の解決」という視点から100年を振り返る
- 共創…グループ会社や外部の企業・教育機関など、ステークホルダーとのさまざまな関連性と共創を伝える
- サステナビリティ…持続可能性に関する計画と取り組み。経営ビジョン、技術革新、マテリアリティ、ESG。開示義務がなくなったため、不要な項目は削除
- データハイライト…財務・非財務情報については開示義務がなくなるため、内容を全面的に見直し、「IRのための数値」から「信頼の指標」へと意味づけを変更
価値共創ストーリー
統合報告書といえば「価値創造モデル/価値創造プロセス」ですが、今後はステークホルダーとの結びつきが強まると思われるため、これを「価値共創ストーリー」として作り直すことも提案しました。
信頼創造モデル/信頼創造プロセス
実はこのクライアントは、数年前に社内で不正問題があったことが発覚し、コンプライアンスを根本的に見直し、再構築したことがあります。そこで、上記の「価値共創ストーリー」とは別に、「信頼創造モデル/信頼創造プロセス」を、インプット・アウトプット・アウトカムの視点から図式化してはどうかという提案も行いました。こんな感じです。

デザイン表現は「柔らかさ」を重視
基本方針案
この構想をデザインで支えるため、以下の4つを基本方針として立案しました。
※実際の提案で用いた表現から変更しています。
●理性と感性のバランスをとる構成
報告書としての信頼性・整然さを保ちながら、やわらかさや流動性を取り入れ、企業としての強さと人間味の共存を表現。
●「人」を軸に、企業の想いを可視化する
写真や構図の随所に「人の存在」を織り込み、理念や技術の背景にある「想い」や「継承」を伝える。
●持続と変化を象徴するビジュアルモチーフ
直線よりも曲線・波・線画などのモチーフを通じ、変化を受け入れながら進化し続ける姿勢を表す。
●章ごとの意味づけを重視したトーン設計
全体のトーンは統一しつつ、 「歴史」「共創」「未来」という3軸に応じて光・色・構図を変化させる。
いずれも、「報告書」という枠を超えて、企業の姿勢そのものを表すためのデザイン構想です。
統合報告書は、コミュニケーションツール

上場企業であろうと、非上場企業であろうと、統合報告書が「コーポレートコミュニケーションツール」であることだけは、変わりません。問題は、統合報告書というツールの対象読者と役割を、どう設定するか。それによって、構成もコンテンツもデザイン表現も、大きく変わります。
統合報告書は、その王道パターン・王道表現を自社用にアレンジすればいい、というフェーズから、「自社は何を知ってほしいのか、何を評価してもらいたいのか、その結果としてどんな価値を得たいのか」を明確化した上で、自由な発想で作成するフェーズへと移行していくのではないか…と強く感じた案件でした。
スタジオ・キャットキックは、コーポレート・コミュニケーション案件に積極的に取り組んでいます。企業規模の大小は問いません。代理店様からのご依頼はもちろん、企業様からの直接のご依頼も可能です。お気軽にご相談ください!
【補足】本事例はプレゼンテーション段階での提案構想です。2025年12月現在ではまだ制作に至っていませんが、統合報告書の新しい可能性を提示した構想として掲載しています。

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