2026年版・TVカタログの動向と顧客体験の行方

テレビの「買い方」が大きく変わっている。一方、カタログはどうか…?
先日、ある代理店様からの依頼でテレビカタログの企画制作コンペに参加しました。この記事は、そのコンペのために当社が準備していた「コンセプトづくりのための準備資料」みたいなものです。ここまで考えたところで、そのコンペは残念ながら中止に。もったいないので、記事として公開することにしました。
閑話休題、テレビのカタログの話です。
ここ数年、テレビの技術革新が凄まじい。家電量販店のテレビ売り場に行くと、超大型テレビが鮮やかなデモ映像を流しているのを見て、心が震えるような思いをした方は少なくないはずです。音響も、音が自分を包みこむように聞こえてきたり…と、めざましく進化しています。この「見え方・聞こえ方」は、実は各社によって大きく異なります。レベルが、ではありません。「ウチのブランドはこんな見え方・聞こえ方を追求している」「お客さまにこんな体験をしてほしい」といった方針・ビジョンが、各社とも根本的に異なるのです。だから、同じ「4K液晶」でも、全然違う。そして「A社よりB社の見え方のほうが好きだな…」といった好みが、店頭体験を通じてお客さまの内側に芽生えます。
つまり…テレビの購買は、もはやスペック比較だけでは完結しません。売り場で体験した映像や音の印象が、最終的な判断に強く影響するようになりました。
ではその体験は、店舗にとっては重要な販売支援ツールであり、お客さまにとっては購入のための参考資料である「カタログ」の中でどのように扱われているのでしょうか。そして売り場での体験とカタログの内容は、どのようにつながっているのでしょうか。…というわけで、前置きが長くなりましたが、本稿では2026年春の各社カタログを俯瞰しながら、「顧客体験の扱い方」という視点から、市場の現在地と今後の方向性を探ります。
売り場は「比較の場」から「体験の場」へ
かつてテレビの購買は、比較検討から始まることが一般的でした。カタログやWebでスペックと価格を調べ、候補機種を絞り込み、売り場で最終確認を行う——こんな流れが主流だったと言えるでしょう。
しかし現在は、これが変わりつつあります。
まず大型量販店のテレビ売り場でさまざまなメーカーの映像や音に触れ、販売員の説明にも耳を傾け、各社の「傾向」や「違い」を感じ取る。そこから改めて情報を調べ、最終判断に至る——そのようなプロセスが増えているようです。実際、ぼく(本稿著者・当社代表の五十畑)がそうでした。
そして、現在においては購買前の段階でも「顧客体験(CX)」が重視されているのは、皆さまご承知の通りです。
ここで、ぼくは以下の仮説を立てました。
こうした売り場・購買体験の変化により、カタログに求められる内容や役割も、実は変化しているのではないか

主要メーカーのカタログ分析
上記の仮説を検証するために、ぼくは2026年2月現在、家電量販店あるいは各社Webサイトで入手可能なメーカーカタログ(7社分)を集め、比較分析を行いました。
評価項目
以下の3点から、各社の比較を行いました。
①体験価値:「体験価値」をどう定義しているか(何を体験だと思っているブランドか)
②体験補完:「体験」をどう情報補完しているか(売り場体験を、カタログでどう支えているか)
③売場連動度:カタログと売り場の連動性。「売り場=体験の場」時代への適応度
評価分析
各社の社名・ブランド名は伏せさせていただきます。また、各社のメッセージ内容や技術名も表現を変えています。
A社
「●●な視聴体験の再現」という明確なコンセプトがあるが、その体験自体をカタログでは語っていない。カタログは技術と製品紹介のみ。
①体験価値:「●●のような没入体験を、自宅で実現する」
●映像・音響技術を総動員して、●●のような視聴体験を家庭に再現。
●目玉技術や目玉機能を設定せず「すべての機能が●●な視聴体験を支えている」と考えている。
●ただし、体験自体の上質さについては表紙以外ではほぼ訴求せず。
②体験補完:体験を「技術の積み重ね」として丁寧に裏付け
●「なぜ没入できるのか」を分解し、一つひとつの技術で説明。
③売場連動度:売り場体験を前提にしているが、カタログがその体験を引き継いでいない
●各機能・技術と体験はダイレクトにリンクしていない。
●体験の内容や質を語っていない。体験が想起されない。
B社
お客さまが売り場で感じる「●●がスゴイね」が、日々の暮らしの中での視聴に結び付きやすい雰囲気を持つ。
①体験価値:定義していない
●「どんな体験を提供するか」「どんな時間を届けたいか」といったコンセプト/メッセージを掲げていない。
●「世界No.1」という実績を強く訴求。お客さまは「売れているのだから、いい(体験ができる)はず」という前提を自然に持つ。
②体験補完:機能ベネフィットに特化
●「何ができるか」「どう良くなるか」を短く、強く訴求。
●各訴求が独立している。
③売場連動度:売り場の非日常(大型・高輝度・没入)を、カタログで「日常側」に引き込んでいる
●カタログは、売り場体験を一切代弁していない。
●「毎日楽しく使えそう」「難しいことを考えなくてよさそう」と、生活視点で捉えやすい雰囲気を作っている。
C社
お客さまの暮らしや利用スタイルではなく、技術の先進感を重視。 「体験」を技術訴求の一部として捉えている。
①体験価値/②体験補完:「技術の高さを体験させる」という思想
●体験というより、「技術スペックの優位性そのもの」が価値。
●「スゴい技術を、たくさん積んでいる」ことを前面に出す。それがどんな体験価値となるかの判断は、お客さまに委ねている。
●基本的に「技術名 → 機能名 → 数値」という流れ。
●ベネフィットは最短距離で一言添えるのみ。
●カタログは「技術訴求」であり「技術体験の補完」。
③売場連動度:売り場では独自の存在感に。カタログがその根拠になる
●このメーカーのテレビは、(デモ動画の影響か)「映像が他社よりいっそう派手に見える」傾向が強い。機能に全振りした訴求が、その「今観ている感じ」の裏付け・根拠になっている。
(ゲーミングモニターの売り方と共通している印象)
D社
技術説明をベネフィット視点で整理することを重視。「売り場=体験」「カタログ=機能とベネフィットの理解」と、役割が独立。
①体験価値/②体験補完:技術重視。体験価値は言語化・定義化されていない
●「技術スペックの高さ」を重視している。
●具体的に、どんな体験を提供したいかは語っていない。
●ただし、「日常的に安心・満足して使える」という軸は感じられる。
●TCLのような「技術的なスゴさによる高揚感」ではなく、「技術の高さが与えてくれる安心と豊かさ」が感じられる。
●カタログは「技術のベネフィット的説明」のツール。
③売場連動度:「売り場体験」を前提にしたコミュニケーション設計をしていない
●カタログは、商品を比較検討し購入を決定する際の「情報源」という役割が強い。それゆえに、「先進の技術」と「ベネフィット」のバランス感覚がある。
●「体験のコンセプト化・定義化」をしていないため、店頭体験と連動させる必要がない。
E社
「売り場体験」よりも「安心・安定」を重視。
①体験価値:「安心・安定」を提供しているが、体験価値化していない
●このメーカーの製品全般には、「高品質・高性能でも、安心して自然に使い続けられる」「高品質・高性能が、特別なものではなく、生活の一部として定着する」という大前提・共通認識がある。
●ただし現在のテレビにおいては、それがカタログや店頭で具体的にイメージ訴求されていない。体験としても提供されていない。
●そもそも、「安心・安定」はメーカーにとって「無敵のコンセプト」ではあるが、驚き・感動・変化に欠け、店頭体験化できない。
③売場連動度:アクティブな「売場連動」を考えていない
●「売り場でどう見せるか」「隣のメーカーとどう差を出すか」「何を体験させるか」といった視点が他社より希薄な印象。
●売り場は「製品陳列と最低限のUSP訴求」に落ち着いている。
●その「最低限のUSP訴求」の補完と「基本性能・信頼性の担保」が、カタログの役割。あるいは、カタログが単独で機能理解・ベネフィット理解できることを目指している。
F社
お客さまの検討・決定プロセスにおいて、体験をあまり重視していない。カタログと体験は、ゆるやかに連動する程度。
①体験価値:エンタメ視聴を、考えずに「いい状態」で楽しめること
●映像・音響の驚きや没入感よりも、「エンタメを視聴するための理想的な環境」を重視。
●瞬間的な感動ではなく、継続的にストレスがなく、安定して楽しめることを価値としている。
●視聴体験そのものよりも、エンタメ視聴を「任せられる状態」を体験価値として定義。
②体験補完:売場体験の補完ではなく、「エンタメおまかせ」の説明に特化
●機能説明は比較的詳細だが、その多くが「エンタメ視聴を任せる」という楽しみ方の根拠として整理されている。
●カタログは、売り場で感じた体験を裏付けるものではなく、「体験しなくても納得できる状態」をつくるための説明ツール。
●そのため、体験がなくても検討プロセスが成立する構造に。
③売場連動度:意図的に(?)売場連動性を下げている可能性
●店頭体験と強く連動させる設計ではないが、売り場と断絶しているわけでもない。
●売場体験とは「ゆるやかに連動」する程度に留め、カタログ単体でも完結する検討プロセスを優先していると思われる。
G社
売場で感じた体験を、日常に「そのまま持ち帰らせる」ためのカタログになっている。
①体験価値:高い没入感や利便性を、考えず・迷わずに得られること
●特にこのシーズンのカタログでは、「高画質・高音質・快適な使用感・便利さ」といった視聴における大切な要素が、自動で自分に最適化されることを「体験価値」として訴求している。
●「没入感の質」がメインの価値であり、それを「自動でまかせられる」を支えているという構図。「高品質」をしっかり謳っている点が、F社と大きく異なる。
②体験補完体験が「再現可能である理由」を提示
●売り場で感じた映像・音の没入感をビジュアルと言葉で再現するのではなく、その体験が家庭環境でも常に再現される理由を、「AI/自動最適化」という機能・仕組みで裏付けている。
●つまり、体験そのものの補完ではなく、体験の「再現性」を補完している。
●言い換えると、「自分が日常で視聴したら…」を、カタログ内で想像させるのではなく、カタログによって「成立させている」。(「いつもの視聴」の中でも成立する体験)
③売場連動度:売り場での体験を「そのまま日常に持ち帰らせる」ための連動
●お客さまが売り場で感じた映像や音の良さを説明するためのものではなく、その体験が家庭環境でも再現でき、継続して楽しめる理由を伝えるためにつくられている。
●売り場は「体験の入口」、カタログは「体験を家に持ち帰るためのガイド」という役割分担がある。
●没入感を直感的に伝えるビジュアルで体験の入口をつくり、その体験が日常の視聴でも続くことを、ベネフィットに翻訳された機能説明と自動最適化で保証している。
まとめ:カタログの今後の役割は…「体験の約束」
7社のカタログを「体験」という視点から分析した結果、以下の4グループに分けられると考えました。

自社のテレビが、お客さまに「どのような体験を提供しているか(すべきか)」を明確に定義している会社は4社。しかし、そのうち3社が、売り場での強烈な視聴体験とカタログでの訴求が、うまく結び付いていないように感じられました。
唯一、G社だけが「売り場での強烈な視聴体験」が「購入後も日常で再現できる」ということを、カタログ内で約束しているような構成・表現になっていました。しかし、その結びつきは決して強くありません。
売り場での「購買を決定づけるような強い体験」は、基本的にはどのメーカーでも起こり得ると思います。だとすれば、カタログの役割は、その商品を購入すれば「店頭での体験が、日常でも味わえると約束すること」「なぜ、それが日常でも体験できるのかを、搭載された機能やスペックを通じて、わかりやすく(ベネフィットとして)語ること」ではないでしょうか。これが、CXが重視される時代における「紙=売り場から持ち帰ることができるもの」である紙のカタログの、最大の役割ではないかとぼくは考えています。

参考(順不同/記事の分析順とは異なります)
https://www.sony.jp/bravia/special/top/?s_pid=jp_/bravia/_braviatop_special/top
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