建設的・構造的・前向きで、
課題解決につながるコピーライティング。

コンストラクティブ=可能性

 “Constructive”という言葉には、「建設的」「構造的」「前向き」といった意味があります。
 私は建設業界出身ではありませんし建築物オタクでも(たぶん)ありませんが、若い頃から、この言葉に惹かれ続けていました。
 そして、気付けば自分のコピーライティングやプランニングを、「建設・建築」のように行なっていたのです。
 例えばたった1枚のチラシでも、市場動向やインサイトを「土台」にして、コミュニケーションの流れを組み立てます。大規模な建築物のように「コンセプト」を明確にし、あらゆる要素に意味や機能を持たせ、導線を整理し、全体として魅力あるものに、文字通り「建てる」のです。必要ならば過去の資産はすべて破壊し、ゼロから作り直します。建設業界でいう「スクラップ・アンド・ビルド」のように——。
 これは、優秀なクリエイターなら誰もがやっていること。しかし、私はこのプロセスにおいて「建設的」という志向性をより明確にしたい、と思いました。なぜなら——この進め方に、大きな可能性を見出したからです。

辿り着いたのは、「何でも屋」「便利屋」!?

 それは、どんな可能性か。答えは単純、「課題解決」の可能性です。
 自分のクリエイティブ手法は、非常に汎用性が高い。この事実に、私は早くから気付いていました。しかし、これがアダとなります。20年以上のキャリアを重ね、この手法によって私が到達したのは…「何でも屋」「便利屋」というポジションでした。何でもつくれてしまうがゆえに、こうなってしまったのです。
 しかし一方で、クライアントが大きな課題に直面しており、それを解決するためのコミュニケーション設計や情報発信を求めているという場合、私の手法が高いポテンシャルを発揮できたのも事実。課題解決の考え方を整理・構造化し、解決手法をクリエイターの視点からコンセプト化・言語化し、コミュニケーションツールに仕上げる——これが私の能力です。
 この点を大きく評価してくださる広告代理店様・総合印刷会社様なども多くいらっしゃいます。クライアントから直接感謝の言葉をいただいたことも、数多くあります。
 つまり、私のような「課題解決」に軸足を置くクリエイターは、実は今の市場には求められている。しかし、今のままでは「便利屋」の範疇を超えない…。

コンストラクティブ・ジャーナリズムとの出会い

 こんな状況に中で私が改めて意識したのが、冒頭に書いた「建設・建築」でした。構造化・機能・意匠などによって、利用者だけでなく社会の課題も解決に導き、最終的にはその存在を通じて利用者も地域も豊かになれる。そんな思想をもってつくられたさまざまな建設プロジェクトや建築物に、私は自分との類似性を感じました。扱う規模や予算は、自分の場合とはまるで違います。でも、私がやってきたことは、建設・建築と本質的に同じなのではないか。——そうだ、言葉も建築なんだ。文法と工法は、確かに似ている。
 そんなことを考えていた頃、私は一つの言葉に出会いました。それが「コンストラクティブ・ジャーナリズム」です。
 コンストラクティブ・ジャーナリズムとは、気候変動や貧困、差別といった社会のさまざまな課題を、ただ報道するだけでなく、解決するためにはどうすれば良いかを問題提起する姿勢をともなった報道のあり方。つまり、コンストラクティブ・ジャーナリズムは「解決のために何ができるか」という建設的な視点を伴う報道なのです。
 なんだ、報道の世界では、メジャーな言葉にはなっていないかもしれないけれど、すでに動きがあるんじゃないか。だったら——。

現代の伝達環境は、かつてより複雑。
だからこそ——

 1990年代から2000年代にかけて、「複雑系」という言葉が流行しました。Wikipediaによれば「相互に関連する複数の要因が合わさって全体としてなんらかの性質(あるいはそういった性質から導かれる振る舞い)を見せる系であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなもの」とあります。これはまさに現代の状況そのもの。しかし、この言葉は廃れてしまいました。その原因は、現代社会が「複雑であることが当然」になってしまったからだと私は考えています。
 しかし、社会や市場の複雑化が進んだ結果、それらが抱える課題は細分化されましたが、その上位概念としてより大きな課題が設定され、さらにはゴールやビジョンを言語によって明確化することで、少しでも複雑化を解消しようという動きが生まれています。「SDGs」を例にすると、わかりやすいかと思います。
 SDGsは、時代が抱えるさまざまな課題を17項目に分類、つまり「構造化」し、アイコンとともに、それぞれを誰にとってもわかりやすい「言葉」で表現しています。アイコンは意味がわからないものもありますが、言葉のほうは単純明快、非常にわかりやすくなっています。
 これは、まさに「構造化」と「言語化」による問題解決です。
 つまり、企業や社会が抱える課題は、構造化と言語化によって、より多くの人々の理解と共感を実現し、そして課題解決へとつながる——そんな可能性があるのです。

「構造」と「解決」のコピーライターへ

 これらに気づいた時、自分が身に付けてきた能力と社会のニーズが、ほんの少しかもしれませんが、リンクしたように感じました。
 そして私は、担っているつもりになっていた自分の「社会における役割」を、ほんの少しだけ、ずらしてみようと考えました。単なるコピーライターから、「構造」という思考をもったコピーライターへ。構造化と言語化で、企業の想いを市場や社会に伝えられる人へ。それによって、理解や共感、行動を促し、問題解決に貢献できる人へ。
 私はこれを、「コンストラクティブ・コピーライティング」と呼ぶことにしました。だから私は「コンストラクティブ・コピーライター」です。
 コンストラクティブ・コピーライティングの可能性を、そして構造と言葉という二つのエッセンスが持つ可能性を、もっと広げたい。複雑化がデフォルトとなった現代を、少しでもいいから、もっとわかりやすく、もっともっと愛せるものにしたい。
 これが私の“Constructive”への想い、そして新たな挑戦です。

2025年夏
有限会社スタジオ・キャットキック 代表
コンストラクティブ・コピーライター
五十畑裕詞