提案は、なぜ途中で迷子になるのか(2) 情報不足の、一つ目の事情

じゃあ、どうすりゃいいんだよ
迷子の理由は、「今」だから。もう少し言葉を足すと、「今=現時点=考え中」が書かれていることが多いから。
前回は、これが「提案は、なぜ途中で迷子になるのか」という問題の「原因」の一つだと考え、具体的にはどんな状況なのかを、「①情報不足」「②情報過多」「③矛盾」「④発言の変化」の四つに分類してみました。
でも、読んでいる方からはこう突っ込まれそうです。「種類はわかったよ。じゃあ、どうすりゃいいんだよ」と。
実は、情報不足の案件で重要なのは、「正解」を当てることではありません。クライアントに「この会社なら任せられそうだ」と感じてもらうこと。つまり、「適性」を示すことです。今回は、その考え方を説明します。
まずは「情報不足」から
というわけで、 提案を迷子にさせる4つの原因、一つずつ考察してみます。
一つ目は、「情報不足」です。
気合いを入れてオリエンに臨んだのに、渡された資料はレジュメだけ。概要が簡潔に書かれていて、あとは予算だの仕様だの提案締切日だの、入札条件のようなものしか記載がない。だから、何を提案したらいいのかが見えてこない。その結果、自分たちの「提案したいこと」が迷走する…。
…というのはちょっと極端な例ですが、ぼくはン十年のキャリアの中で、このようなオリエンによく遭遇しました。今でも年に1〜2回はあります。いや、もっと多いかな。
情報不足になる「事情」
渡される情報は、少しだけ。キャリアが浅い頃は、ついつい「これは、手抜きオリエンだ。このクライアントは、提案してもらうということにきちんと向き合っていないのではないか」などと考え、怒ってしまうことがありました。
しかし、あれからン十年。今はそう思いません。クライアントには、そうなってしまう「事情」があると学んだからです。
つまりクライアントは「こうせざるを得なかった」のです。その「事情」は、さらに四つに分けることができると考えています。
[事情1]まだ商品開発中、あるいは戦略立案中だから
[事情2]情報が未整理だから
[事情3]慣れていないから
[事情4]情報漏洩リスクがあるから
[事情4]については、このまま受け入れるしかありません。ただし、[事情1]と同じ考え方で取り組むことが可能です。
[事情1]まだ商品開発中、あるいは戦略立案中
販売開始やサービスインから逆算すると、今オリエンするしかない。でも、開発が少し遅れていて詳細が決まりきっていない。あるいは、マーケ調査が終わっていない。コンセプトも戦略も決まっていない。予算は確保できたけど、戦略面は社内で了承されていない。そんな状況です。
つまりクライアントは、販売開始やキャンペーン開始などから逆算した上で「時間切れ」と判断し、現在開示可能な決定事項を、すべて渡した。でも、その総量が少ない。だからぼくたちの側から見ると、「情報不足」だと感じます。
この場合、「本当に出せる情報がない」というケースと、「中途半端過ぎて出せない」というケースの二つがありますが、この点を意識し過ぎる必要はない、とぼくは考えています。
正直、どっちでもいい。提案側は、ある程度対応できますから。
「商品仕様」の情報不足は、気にしない
ちなみに、商品仕様に未定部分がある場合は、いただいた情報だけで進めて大丈夫。商品仕様に関する未定部分は、多くの場合、「サイズなどのスペック情報」や「エビデンス」であることが多いようです。つまり、これらの情報は、なくても支障がありません。
問題は、戦略・戦術面。オリエン資料に「どう売りたいのか」がほとんど書かれていない場合は、提案を工夫する必要があります。
戦略・戦術情報は、無理に入手しようとしない
このような状況でありがちなのが、「戦略の情報が揃うまで待とう」「情報をもう少しもらおう」「質問して穴を埋めよう」と考えることです。
確かに、それも有効。ただし、企画コンペ・デザインコンペの場合は、あまり意味がないことがあります。なぜなら、公平を期するためにクライアントはすべてのコンペ参加者に同じ情報を提供するから。
そもそも、戦略に関する情報は、質問したからといってホイホイと提示してもらえるものではありません。繰り返しますが、そこが決まっていないから、オリエン資料に記載できなかったわけですから。
こういった状況では、「情報不足」を受け入れた上で提案すべきだとぼくは思っています。
なぜなら、この状況にあるクライアントが見たいのは、「完成した答え」ではなく、「適性」だからです。
情報不足における「適性」とは
ここでいう「適性」とは、「この会社なら、われわれが今後完成させる予定の商品や戦略に、ピッタリな企画や表現ができるのではないか」という判断ができるということ。つまりクライアントは、「完成した提案」を見ているのではなく、「この会社なら期待できる」という期待度を見ているのです。
クライアントは商品開発中・戦略立案中であっても、コアとなる部分だけは社内で共有できている場合がほとんど。明確に言語化・視覚化はされていないものの、感覚的にはイメージを持っていることが多いようです。
つまり、ぼくたちの提案を受けた段階では、その具体的な内容はひとまず横に置き、自分たちが「イメージ」を完全に具体化した時に、その価値を企画や表現で最大化できるかどうか、それだけを知りたい。多くの場合、これが判断基準になります。
ただし…提案を依頼した段階では、クライアントが「提案内容の良し悪しを、どんな基準で判断すべきか」という明確な評価軸を持っていることは、ほとんどありません。
要するに、ぼくたちが情報不足の状態でクライアントに提供すべきことは、「自分たちなら、情報不足でも、リアルな仮説に基づいてここまで提案できる」「情報があればもっと提案できる」「自分たちならこの商品の魅力を、どのようにでも訴求できる」という可能性を示すこと。これによって、クライアントは安心し、「この会社には適性がある=任せられる」と判断するのではないでしょうか。
また、ごくまれにですが、クライアントが意図的に提供できる情報を絞り込むことで、この「適性」を判断しようとすることがあります。
適性は、「仮説」で示す
「そうはいっても、少ない情報では、なかなか考えを広げられない」そんな声が聞こえてきそうです。
この場合、 もっとも有効な方法は「仮説」を立てることだとぼくは考えています。
いくらオリエン情報が少なくても、よく読めば「どの分野に属する、どんな商品なのか」と「それはターゲットにどんな価値を提供できるのか」は、必ず見つかります。これらを掴むことができれば、マーケティングを多少学んだことがある方なら、そこから先を仮説で展開していくことは可能ではないでしょうか。
ターゲットが見えているなら、その属性の消費者の価値観、家族構成、消費行動、悩み、所属するコミュニティ…などは仮説を立てられるはず。また、商品の基本機能が見えていれば、その商品の市場動向、販売チャネル、競合動向なども十分わかります。
重要なのは、その仮説をもっともらしいロジックとしてしっかりまとめること。その仮説を基盤として、どのような方針を立て、どのようなコンセプトに基づき、どのような企画や表現にするのかを、ロジカルに、そしてワクワクするように、ストーリー性のある提案としてまとめあげること。
つまり…出発点が「仮説」であること以外は、いつもの提案と同様です。
仮説は「大ハズレ」にはなりにくい
上記のポイントを押さえていれば、仮説で提案内容を設計しても、大ハズレになることは滅多にありません。
仮説ベースだとしても、提案内容さえよければ「ここはわれわれが考えているUSPとは微妙に違っているのですが…」「この市場は実は裏側にこんな事情があって…」など、意外な情報を提案後にいただけることもあります。提案側に時間と予算があるなら、これをベースにして再提案できるかもしれません。
理想は、仮説がクライアントが思い描いていた(けれど時間切れで提示できなかった)戦略・戦術と合致している、という状態。実現するのは大変難しいですが、ここを目指せば、提案内容は完成度が高くなるはずです。
もちろん「投資判断」も大切
ただし、ここまで読んで「どんな案件でも仮説で挑めばいい」と受け取ってほしいわけではありません。
あなたのチームが「仮説」に人やアイデア、時間などを投資することに納得できるかどうかを、適切に判断することも重要です。
もし「ムダになりかねない」と感じたなら、この提案からは手を引くべきです。しかし、少しでも「この仮説ならイケる」と感じたなら、チャレンジする価値は十分あると思います。
ムダになるかならないかの判断は、状況によってさまざま。ただし、基本的には以下の視点を持っておくといいと思います。
●クライアントの成長可能性…クライアントが今後成長するか。成長途中なら、長期的に考えれば投資する価値は十分にあります。
●提案時の競合動向…提案に参加している競合他社と自社を比較して、「採用可能性はあるか」をリアルに考えることも重要。その業界やそのクライアントの事情・動向などに精通している会社と競合する場合、「仮説」だけではなく、「勝ち筋」まで考える必要があります。また、最近は減っているようですし、あまり考えたくありませんが、「出来レースだから情報不足を装った」という可能性もあります。一方で、提案の参加社数を把握することも重要です。参加者数があまりに多い場合、提案が無駄になる可能性も高くなりがちです。
●提案内容作成の作業負荷…作業負荷があまりに膨大になりそうなら、提案から「下りる」という判断を下すことも大切です。
しまった、長過ぎた…

今回書きたかったのは、「情報不足だから提案できない」という考え方ではありません。情報不足だからこそ、実力や本気度が試される。クライアントがそこに「適性」を見出してくれたら、その案件はきっと受注できます。やりがいのある、充実した好事例になるはずです。
実はこの原稿、当初の予定では、この「第2回」の原稿で「情報不足」の事情1〜3をすべて語るつもりでした。でも…書き始めたら、長くなってしまいました。まあ、それくらい今回の内容が重要だった、ということだと思います。
というわけで次回は、「情報不足になる事情2」をお届けします。乞うご期待。

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