提案は、なぜ途中で迷子になるのか(1) オリエン資料を読んでも迷う理由

読み込みましたよ、穴が開くまで
「オリエン資料は、穴が開くまで読め」
ぼくが20代のころのお話です。某総合印刷会社の制作部門でディレクターをしていたぼくは、先輩や上司から、頻繁にこう言われていました。
確かに、これは基本中の基本です。しかし…よく読んだからといって、採用率が極端に上がるわけではない。むしろ、思考の迷路に迷い込み、そのまま迷子になることが多かった。
提案迷子。広告屋としては、非常に悲しい状況です。
わかるのに、わからない
ではなぜ、オリエン資料を穴が開くまで読んでも、迷子になってしまったのか。
答えは単純。何が書いてあるのか、わからなかったからです。
当然、ぼくの経験不足や知識不足もあったでしょう。なにしろ、若くて無知でしたから。だから、上司に言われたとおりに穴が開くまで読み、わからないことは徹底的に調べ、理解できるまで取っ組み合いました。でも……あれ、と思うことが少なくなかった。
「なぜそう考えたの?」「結局、何をしたいの?」「何が欲しいの?」
読めば読むほど、理解しようとすればするほど、わからなくなるのです。
そして、あれからン10年(って、綾小路きみまろみたいだな)。経験は積んだ。独立した。お勉強も重ねた。そして、オリエンを受けるたび、資料は穴が開くことはないけど、懸命に読んでいる。わからんことはすべて調べている。
書いてあることは、しっかり理解できるようになりました。しかし、それでも迷子になってしまいます。
わかるのに、わからないんです。
だから、的を射た提案にならない…。
「オリエン」って、なんだっけ?
ここで、若かりし頃のぼくを何度も迷子にさせた「オリエン」とは何かについて、ちょっと考えてみます。
Orientation。辞書的には、「方針、方向性、基本的な考え」といった意味。広告業界では「与件、要件」といったりもします。
口頭でベラベラベラーッと説明されるだけのこともありますが、大抵の場合は書面でいただきます。書面のものは「オリエン資料」と呼ばれることが多いですね。IT業界の影響で、最近は「RFP(Request for Proposal)」とも。ほぼ同じ意味だと思いますが、後者のほうが、内容が細かい傾向にあるようです。
迷子の理由は、「今」だから
オリエン資料に真面目に向き合っているのに、なぜこんな状況になるのか。一時期、本気で悩んでいました。悩んで、悩んで、悩んで、そして…気づきました。これはクライアントの立場や状況を考えれば、当然なのだと。
オリエンテーションは、完璧じゃない。
口頭で説明されたこと、そして資料に書かれていること。その大半は、クライアントが「現時点」で考えていること。社内調整の難航、準備期間の短さ、社外秘情報の壁…といった問題から、オリエン資料は「ひとまず今はこう考えている」「ここまでは言語化・視覚化した」「今はここまで開示できる」といった情報だけが掲載されていることが多いと感じています。乱暴ですが、一言でまとめると「途中」「考え中」です。
オリエンが「途中」でも渡される。これは当然です。クライアントは常に限られた人員・予算・時間のなかで、組織のさまざまな立場・役割の方との調整をしながらプロジェクトを進めているのだから。ぼくたちには想像もつかない努力をされている。この点には、本当に頭が下がります。
だからこそ、ぼくたちクリエイターは「これは、『今のクライアント』の状況と考えなんだ」という視点を持ち、そこに敬意を払うべきです。
これは、言い換えると「クライアントと現在を共有し、未来をつくる覚悟を決める」ということになると思います。
提案とは、覚悟のこと。そして、その覚悟がコンセプトになり、アイデアになるのではないでしょうか。
ごめんなさい。精神論では終わらせません
…あれ、気づいたら精神論を書いていた。これ、予定外です。思考が暴走してしまった。ごめんなさい。
話を戻します。オリエン資料がわからなくなる理由は、「今=現時点=考え中」が書かれていることが多いから。その「今」とは、つまり与えられた情報は、具体的にはどんな状況なのか。少し整理してみます。
①情報不足
オリエン資料がA4ペラ1枚、しかも書いてあるのは上半分くらいまで。そんな経験、ありませんか? これは、商品の仕様が最終決定されていなかったり、マーケティング方針や市場データが最低限だったり、細かな情報を今の段階で開示すべきか判断できなかったり…といった状況が多いようです。「考え中」の典型例です。
②情報過多
一方で、膨大な製品資料や市場調査資料が添付されているケース、あるいはそれだけが渡されることがあります。以前は「少年ジャンプより分厚い」と言って笑いをとるようにしていましたが、最近はPDFでの提供が多いですね。
なぜ大量の資料を渡されるのか。これは、「開示できる情報は全部渡す」と考えたからです。
③矛盾
例えば、資料の冒頭にターゲットやKPIがしっかり書いてあるのに、そのプロセスとしての施策の方向性が明らかに違うと感じる場合。このような矛盾がオリエンに含まれていることは意外に多いと感じます。一番厄介ですよね。でも、こういう案件、個人的には好きです。
④発言の変化
これはオリエン内容だけでなく、プレゼンテーション後も含めてのこと。オリエンでは「Aという方向の提案を求めています」だったのに、実際に採用されたのは「Bという方向を目指している案」だった…ということもよくあります。
「ボヤキのタネ」にさせないために

オリエン資料が薄い。情報が多過ぎる。話がかみ合わない。発言が変わる。
そんな状況に遭遇すると、ついボヤきたくなりますよね。
でもそこはグッとこらえて、対策を講じたい。というか、ボヤキなんて一瞬で吹っ飛ぶくらい良い提案にしたい。そして採用にこぎ着けたい。
…というわけで次回は、オリエン資料にありがちな「情報不足」という厄介な状況を、どのように提案へつなげていくかについて考えてみます。
この記事で触れた内容の背景には、「提案基盤設計」という考え方があります。詳しくはこちらにまとめています。

提案基盤設計サービス
IDEAS OVER CHAOS.
「与件の混沌」を、突破口に変える。
「与件の意図が掴めない」
「提案の『正解』が見つからない」
「方向性が定まらない」
といった提案時の課題の解決を、
コンストラクティブな視点からサポートします。

ご相談・お問い合わせ
まだ具体的な内容が決まっていなくても、大丈夫。
企画段階から伴走できます。そして、難題大歓迎。
「可能性、あるかな…」少しでもそう思ったら、気兼ねなくご連絡ください。

