「周年」を、サステナビリティ・レポートでどう伝えるか。
[事例]某建設会社 サステナビリティ・レポート 創業100周年記念号

過去を振り返ることで、未来を語る。
周年企画では、企業が歩んできた歴史を振り返ることが求められます。一方、サステナビリティ・レポートは、現在の取り組みと未来への姿勢を伝える媒体です。
つまり、過去を語る周年と、未来を語るサステナビリティ・レポートでは、時間の向きが異なります。単純に沿革や歴史を掲載するだけでは、記念企画にはなっても、サステナビリティ・レポート本来の役割とは結び付きません。
今回ご紹介するのは、創業100周年を迎えた建設会社様のサステナビリティ・レポート制作事例です。過去と現在、そして未来をどのような考え方でつなぎ、一つの特集として構成したのか。企画立案のプロセスと具体的な内容をご紹介します。
100周年記念号という特殊なミッション
今回ご紹介する建設会社様は、2026年に創業100周年を迎えた株式非上場の中堅ゼネコン。土木、建設など総合的に事業を展開しています。
また、大正時代の公害対策のための煙突建設、東京湾の埋立による交通インフラの整備、関東大震災での復旧工事など、CSV(事業を通じた社会貢献)的な側面の強いルーツを持っています。
当社は、某総合印刷会社様のご依頼で、サステナビリティ・レポートの企画・構成・ライティングを担当。今年でも5年目となりました。
100周年という特殊事情
2026年度版レポートのキックオフ・ミーティングでは、クライアントから「100周年を記念して、サステナビリティと連動した内容の特集ページを掲載したい」という依頼がありました。
一般的に、サステナビリティ・レポートでは「周年」はメインコンテンツになりません。周年は自社にとっての「祝い事」であり、ステークホルダーにトップメッセージなどをつうじて感謝の意を示すことに意義はあるものの、「歴史を振り返ること」と「持続可能な経営を実現すること」は直接結び付かないと考えられているから……かもしれません。また、サステナビリティ・レポートは「今の取り組みを伝える媒体」です。過去について伝えたいなら、社史を作成すべきです。
こういった考えから、サステナビリティ・レポートでは「トップメッセージで周年について触れる」「特別に沿革年表を入れる」「トピックの一つとして周年を伝える」といった手法が取られることが多いようです。
しかし…このクライアントで、それだけにしてしまうのはもったいない。ぼくたち企画制作チームは、この会社ならではの100周年とサステナビリティの接点を、あらためて探ることにしました。
その手掛かりとなったのが、二つのルーツに共通する「事業を通じた社会課題の解決」という創業の精神です。
「創業時のCSV」と「現在のサステナビリティ経営」をつなげる
そもそも、このクライアントは、CSVを100年も前に先取りしていました。創業の動機が「事業を通じた社会貢献」だったのです。そして現在も土木・建築事業を通じて直接的あるいは間接的に、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。
つまり、「サステナブル」で、100年前と現在が一本の線で繋がる。そして、この線は「未来」にもつなげていくべきである——。
ぼくたちはそのように考え、以下の基本方針をクライアントに提案。
周年を、単なる「祝祭」や「過去の総括」で終わらせず、100年の技術・文化を「持続可能性」という観点から、次の100年の価値創造へつなぐことのできる特集を実現する
業界内外の周年を迎えた企業のサステナビリティ・レポートの分析結果とともにこの方針をプレゼンしたところ、「ぜひ、この方向で」という返答をいただきました。
「時間×人」で、3つの特集記事を構成
具体的には、以下の考え方で全8ページ・3つの特集企画を制作しました。
①過去・原点 × 創業者…サステナビリティ経営やCSVの源流となる「創業時の社会貢献型事業」を伝える
②現在 × 経営者…サステナビリティ・ESG関連の課題解決に取り組む現在(および数年〜30年後程度)にフォーカスする
③未来 × 従業員…従業員が考える「理想」「夢の実現」「次世代に託したいこと」に目を向ける
①過去・原点 × 創業者編 「『社会課題』から振り返る二つのルーツ」
実はこのクライアント、平成の時代に二つの建設会社が合併して今の形になっています。つまり歴史を辿ると二つのルーツがあり、その両方がCSV/持続可能性が極めて高いという特徴がありました。
そこで、それぞれのルーツを1ペーズずつ、見開きで対比するように読んで特徴・共通点・違いがわかる記事を作成しました。現在の社員の大半は自社のルーツを明確には認識していなかったため、このコンテンツは社員向けの歴史教育的な役割も果たすことができました。もちろん、スタークホルダーにおける好意形成も重視しています。
※事例化にあたり、タイトルは実際のものから変更しています。
②現在 × 経営者 「100周年記念 サステナビリティ経営座談会」
①だけでは、ステークホルダーの視点は過去にしか向かいません。しかし本来、サステナビリティ・レポートとは未来に向けてのビジョンと現在の取り組みを発信するためのもの。
そこで、「100周年という節目を、今後のサステナビリティ経営にどう活かすか」をテーマに、社長を始めとする役員にじっくりと話し合っていただき、これを記事化。「経営」という観点から、100周年を未来につなげました。
③未来 × 従業員 「未来に向けてのリレーメッセージ」
②は、100周年という節目を未来について語るためのフックとして有効ではあるものの、経営者の視点が強いため、多くの社員が「100周年は、自分には無関係」と感じてしまう可能性があります。そこで、社員の「100周年の自分事化」を促すために、「リレーメッセージ」という企画を掲載することになりました。
リレーメッセージとは、文字通り「メッセージをリレーする」ということですが、明確な定義はありません。今回は「100周年を迎えた現在から、未来の自分や社員、会社に向けて」というテーマで、若手から中堅の社員十数名にメッセージを書いていただきました。
これによって100周年が「社員のためのものでもある」という認識を広げることができました。また、 「●●支店にいる同期が出ている」といった反応だけでなく、「あの人はこんなことを考えていたのか」といった刺激にもなり、社内全体のサステナビリティ意識の向上にもつながりました。
「周年」は、単なるお祝いではない! 「社史」は、単なる記録ではない!

今回のように、周年という節目は、サステナビリティ・レポートの役割を変えるものではなく、その役割をより深く考えるきっかけになります。このクライアントはレポートを5年間発行し続けていますが、今号から「今の取り組みを伝える」という視点だけでなく、より長期的な視点から「未来をどうするか」という視点が強まるのではないか、と期待しています。
当社は以前から、「マンガ社史」「マンガブランド史」をいくつか手掛けており、社史そのもののテーマ・コンセプト開発などの編集企画やディレクションにも携わっています。これらの多くは、「100周年」などの大きな節目につくられます。
これらの経験から感じるのは、社史の編纂や周年記念事業は、決して単なるアニバーサリーイベントや記録ではないということ。経営方針の明確化・定着化や社員の会社に対する所属意識や愛着の向上など、さまざまな面で高い効果を期待できる「戦略的な施策」なのです。
今後も、周年事業や社史の事例については、(公開可能な範囲で、そして匿名で、ではありますが)ご紹介する予定です。

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