提案は、なぜ途中で迷子になるのか(3) 情報過多

前回までのおさらい——
前回からかなり期間が空いてしまいましたが、ご好評いただいている「提案迷子」シリーズの第3回です。
まずは、前回までのおさらいから。第1回では、提案が迷子になる原因を以下の4つに分類しました。
①情報不足
②情報過多
③矛盾
④発言の変化
「①情報不足」の主な原因は、商品開発中、あるいは戦略立案中という点にあることを解説。この場合、
- 情報が揃っていないなら、無理に「正解」を当てようとしない
- 仮説に基づいて提案し、「この会社なら任せられそうだ」という適性を示すことが重要
であるとお伝えしました。
情報過多=情報未整理
今回は、「②情報過多」を取り上げます。
情報そのものは存在している。商品仕様、市場調査、社内資料などもある。その量は膨大。その情報収集量や資料作成の労力には頭が下がる。ただし、それらが「提案に使える形」に整理されていない。だから、どさっとそのまま渡される。多くの場合、それを読み解く鍵となる情報すらその資料の中に埋もれてしまっているため、読んで理解するのに膨大な時間と労力を要する——そんな状況です。経験、ありませんか?
オリエンがこうなってしまう理由は、複数あるとぼくは考えています。
一つ目の理由は、「時間不足」です。情報はある。それらに対する開示可否の判断もできる。ただ、オリエンまでにそれらを整理することができなかったという状況です。多くの場合、クライアント自身も情報を整理する必要性は感じています。ただし、そこまで手が回らなかった。
二つ目の理由は、「何がタネになるかわからないから」。基本的に、クライアントは企画制作会社から少しでもよい提案を引き出そうとします。しかし、クリエイターがどこに着目し、どのようにアイデアを展開していくのかはわからない。つまり、どの情報が「タネ」になるかがわからない。ならば、渡せるものは全部渡そう、という発想。多くの場合、こう思った時点で「整理しておこう」という考え方も希薄になるようです。「整理・編集の軸がクリエイターに先入観を与えてしまうのでは?」と無意識のうちに考えているのではないか、とぼくは推察しています。
対策は、「こっちで整理・編集する」
未整理の情報の山——このような状況に直面すると、普通は困惑します。クライアントに「どこが重要とお考えでしょうか」と質問する場合もあるようです。そうすることも、もちろん重要。しかし、ぼくは経験上、別のアプローチをするようにしています。
それは、「こっちで整理・編集する」という方法。つまり、未整理な情報をそのまま受け取った上で、情報の編集・体系化を提案の起点になるように整理・編集するのです。そして、その編集された情報を提案書の冒頭に載せてしまいます。
ここでいう「編集」とは、単に資料を整理‧要約することではありません。情報の意味や関係性を読み取り、意味や価値がより高くなる構造に組み直すことです。
実は、クライアントが未整理な情報をそのまま渡してくる理由は、もう一つあります。「どう整理したらいいかがわからないから、そのまま渡した」です。膨大な情報を適切な視点から編集し、理解しやすく、活用しやすい形に編集するには、特殊なスキルが必要。これは、一朝一夕にできるものではありません。生成AIにまとめさせることは可能ですが、適切な編集軸・編集方針・考え方などを提示しないと、理想の形に仕上げるのは、今の段階ではかなり難しい。
つまり、「情報の整理・編集」は高度な技術で、しかも完全な代替手段は存在しない、ということ。もっと端的にいってしまうと、「オリエン情報を整理・編集することには価値がある」ということになります。
「こっちで整理・編集」はWin-Winにつながる
しかも、ここにはWin-Win的な価値が生じます。
ぼくたち提案する側は、オリエン資料を整理・編集することで「オリエンの内容の理解度が高くなる」「提案のトリガーを見つけやすくなる」「思考を展開しやすくなる」「情報の取捨選択ができる(提案に必要な情報はどれかを選定しやすくなる)」といった価値を得ることができます。
そしてクライアントは、ぼくたちが整理・編集したオリエン資料を通じて「自社商品の強みや優位性、弱み、課題などを把握しやすくなる」「制作会社や代理店の提案内容の評価基準が明確になる」といった価値を得ることができます。つまり、ぼくたちがオリエン情報を編集することで、クライアントと同じゴールを見やすくなるのです。
ぼくの場合、具体的にはこんなことをしています。…とはいえ、これがすべてではないですし、これらすべてを毎回やっているわけでもないのですが。
- 情報を分類する
- 重複をまとめる
- 矛盾や抜けを確認する
- 強み・優位性を言語化する
- 課題を抽出する
- 情報同士のつながりを見つける
さらに言い換えると、オリエン情報の編集は「提案のための前処理」ではありません。「提案」をご提供するために、なくてはならない「基盤」なのです。
ただし、落とし穴はある…
オリエン情報を編集することは「いいことづくし」のように見えますが、実は大きな落とし穴があります。
それは、「編集のズレ」という問題です。
情報の編集をする際は、必ず「編集軸」が必要です。これを見誤ると、そもそもスタート地点を間違えていたという事態に陥ります。そうなると、提案の全内容が芋づる式にズレていきます。その結果、提案内容が的外れになる……ぼくは過去に何度もこれをやらかし、失注しています。
しかし、この「ズレ」という問題は、気をつけていればある程度は防ぐことができます。重要なのは、いくら膨大だからといって「渡された資料だけで完結させようとしない」「オリエン資料の中だけから答えを探そうとしない」という姿勢です。
具体的には、オリエン資料だけでなく、以下についても調べておくことで、「編集のズレ」は防ぎやすくなります。
- 過去の商品・サービス
- 過去のコミュニケーション
- 競合商品
- 市場動向
- 業界構造
- クライアント特有のマーケティング傾向
ここでも「投資判断」は必要
未整理なオリエン資料を渡された際は、「その案件は整理・編集コストをかけてでも取り組みたい案件か」という点もしっかり考えておく必要があります。
初めてのクライアントである、自社に業界知見がない、提案期限が短い……といった条件が重なるほど、整理‧編集にかけるコストと受注可能性を冷静に⾒極める必要があります。
まとめ:重要なのは、「つながるように」

オリエン情報が未整理なまま、どさっと大量に渡された場合は、その「未整理の情報」を整理・編集した上で、外部資料なども参考にしながら丁寧に読み解き、そこに潜んだ課題を発見することが重要です。
大切なのは、情報を「きれいにまとめる」ことではありません。提案につながる形に編集することが、もっとも重要になります。
さて、次回は「③矛盾」を解説する予定です。

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