難解な「IT系の販売事例」を、どうまとめ、どう伝えるか。

[事例]某ITベンダー ネットワーク機器導入事例

サーバや通信機器、システム、SaaSなどのIT関連は企業の重要な情報を常時取り扱う必要があるため、買い手は機器選定・サービス選定に慎重になりがちです。そこで重要となるのが「この機器はどのような企業に、どのような形で導入・運用されているか」を紹介する「導入事例・販売事例」です。企業によって業態、規模、ネットワーク形態、サービス利用目的、予算などは大きく異なるため、事例紹介は「できる限り多くの事例を、継続的に」が基本となります。

そこで今回は、「できる限り多くの事例を、継続的に」を「PR誌」という形で実現した某ITベンダー様の事例をご紹介します。「事例制作入門」のような内容になっていますので、「事例をつくったことがない」という方は、ぜひご一読ください。

[クライアント紹介]シスコシステムズ取り扱いのプロフェッショナル

 ご依頼いただいたクライアントは、某商社。IT機器を専門に取り扱い、自社でソリューション開発もしていますが、当時は海外の大手IT機器メーカーであるシスコシステムズの取り扱いが売上の大きな柱になっていたようです。その中の一つ、レイヤ2/3スイッチやルーター、LANといったネットワーク機器を扱うシスコシステムズの製品の販売促進のためにPR誌が企画され、その目玉コンテンツとして、毎回さまざまなクライアントの導入事例を紹介することになりました。

 実はこの事例、以前に「某ITベンダー 法人顧客向けPR誌」としてご紹介しています。本稿では、この冊子に連載していた事例コンテンツの制作手順にフォーカスしてご紹介します。

[事例制作の企画骨子]多種多様な業種・業態・規模・技術・形態の積極的な紹介が目的

 この事例記事制作の目的は、「最新技術も含め、あらゆるネットワークに対応できることを、『事例』として具体的にアピールするし、リード獲得につなげること」。取り扱った事例は数十種類に上り、いずれも業種・業態・規模・技術・形態が大きく異なっていました。また、ルータ/コア/ディストリビューション/アクセス……といったネットワーク機器だけでなく、当時シスコが注力していたIPフォンや無線LAN、リモート会議システム、DDoSなどのセキュリティソリューションについても取り上げています。

[準備段階①]企画骨子に基づき、事例化したい案件を選定

 発行時期の約2〜3カ月前に、クライアントにて社内会議が行われます。

 ここで議論されるのは「どの実績を事例化するか」です。これについては、クライアントの全国の営業拠点から収集した最新の導入実績情報とシスコの販売戦略、さらには業界のトレンドや一般企業におけるニーズ・動向などを照らし合わせ、「今、どんな事例を取引先のご担当者に伝えるべきか」を社内で徹底的に議論し、選定します。この選定業務には、制作チームは基本的には関わりません。ただし、どのような基準で選んでいるかについては情報共有されます。

 なお、事例は以下の視点から選ばれていました。

  • 何を伝えることができる事例か
  • どんな要件だったか。どんな業種・業態・規模で、どんな課題や条件、要望などが提示されたか
  • 同様の課題を抱える企業はどれくらい存在すると思われるか
  • 取材先企業との関係性はどうか/承諾してもらえそうか
  • 取材することによるリスクはないか ……など

 取材先が絞り込めた時点で、営業担当者がマケティング担当者とともに先方を訪問して交渉していたそうです。

[準備段階②]編集会議・兼オリエンテーションを実施

 次に、PR誌の編集会議を兼ねた事例のオリエンテーションが行われます。

 オリエンには、クライアントのマーケティング担当者のほか、技術や商品に精通した技術スタッフが参加。実際にその商品の提案や納入を担当したSE(システムエンジニア)、営業担当者などが加わることもありました。

 彼らから、制作スタッフ(主に事例を書くライターである当社代表・五十畑)に対して、提案時に実際に使われた資料や工程表、シスコの公式な技術資料などを用いて、技術的な説明が行われます。余談ですが、ある程度ITに関する知識があるとはいえ、ぼくにとっては新しい技術を知る絶好の機会。毎回、とても楽しかったです。

 この説明によって、事例としての目的、ターゲット、訴求ポイントなどが明確化されます。必要に応じて、制作スタッフから質問も行いました。技術的な質問がメインでしたが、マーケティング面や営業戦略面についても質問していました。

[準備段階③]仮の構成づくり/ヒアリングシートの作成・提出

 オリエンが終わったら資料を持ち帰り、徹底的に読み込みます。そしてしっかり理解できたら、記事としてどのような内容と流れになりそうかをイメージし、具体的な構成を考えます。この段階では、主に以下のポイントを重視していました。

  • 取材で何を聞けばストーリーを具体化できるか
  • 足りない情報はないか
  • 何を書き、何を伝えれば事例記事として読み手に興味を持ってもらえるか
  • 何を書き、何を伝えればクライアントのマーケティング面・営業戦略面の目的を反映できるか
  • 技術面・製品面以外に、記事の価値を高められる要素はないか(提案内容や工程設計の工夫など)

 これらを「ヒアリングシート(取材用質問表)」としてまとめ、オリエンから1〜2週間でクライアントに提出。クライアントに内容を確認していただいた上で、取材先に提出していただきました。

 取材時は、取材先企業、クライアントの営業担当者、SE、工事担当者など複数が参加するため、ヒアリングシートではこの質問は誰に対しての質問なのかが明確になるように工夫していました。

[取材当日①]意外に効果のある「事前ランチ会」

 そして、いよいよ取材当日です。ほとんどの場合、取材は午後早めの時間帯に実施します。そして取材前には、クライアントのマーケティング担当者のご意向で、必ず「ランチ会」を行っていました。

 取材に参加して、実際にその事例について詳細を話すことになる営業担当者、SE、工事担当者などが、制作スタッフと顔合わせをします。SE、工事担当者はこの時に初めてお会いすることが多かったため、食事しながら親睦を図ります。なごやかな会話を事前にしておくことで、取材本番で緊張しないようにするのが狙いです。

 これ、意外に効果が高いと感じていました。ただし、取材前に十数名が入れる飲食店を探して予約するのは、かなり大変だったそうです(笑)。

[取材当日②]まずは(ケースバイケースですが)集合写真の撮影

 そして、いよいよ取材本番です。取材先の企業を訪問し、インタビューと撮影を行います。

 「撮影は不要」と考える方もあるようですが、顧客の満足している様子や、その会社の雰囲気をリアルに伝えることのできる写真は、記事内容と同じくらい重要です。コストはかかりますが、プロのカメラマンを手配するのがベスト。ほしいアングルや表情をしっかり押さえてくれます。

 また、プロによる撮影には「緊張を和らげる」という効果もあります。カメラマンは「はい、人生最高の笑顔で!」「モデルになったつもりで!」など、さまざまな冗談まじりの指示を出してくれます。これが、インタビュー前の「うまく話せるだろうか」という不安の払拭に大きく役立ちます。ぼくたちのチームは、取材先のご担当者の表情を見て、緊張しているようなら先に集合写真を撮影するようにしていました。ただ、これが逆効果になる場合もあるので、慎重な判断が必要です。

 また、撮影中に事例に関する会話が雑談的に始まることがあります。この場合は、しっかり会話の内容に耳を傾け、メモをします。

[取材当日③]取材の目玉、インタビュー実施

 そして、インタビューを実施します。基本的には事前にお渡ししているヒアリングシートに基づいて質問を展開しますが、必要に応じて「脱線アリ」にしています。目を通しておいたさまざまな資料にないことの片鱗が出てくることがあるので、そこを掘り下げたり、広げたりします。

 一方、他の話の流れですでに言及されている場合は質問を割愛することもあります。

 余談や冗談も重要です。インタビューの回答をより円滑にする効果があります。また、このクライアントの事例制作では固くて難解になりがちだったため、なるべく「リアルな実感」を引き出せるように心掛けました。

[取材後①]記事原稿を作成

 取材終了後は、記事原稿をWordで作成します。インタビューの模様をもとに記事を作成します。この際、必ずしも会話どおりにはまとめません。わかりやすくするために、さまざまな編集を施します。また、例えば営業的なお話をSEの方がされていた場合などは、クライアントに了承を得た上で、営業の方が話したことにするなどのアレンジも行います。

 この案件で特に重要だったのが「ネットワーク図」です。多くの場合、SEが作成したネットワーク図は当事者以外にはわかりにくい内容であることが多かったため、ぼくが「一般的な企業の情報システム担当者でもわかるような図」に描き換えをしていました。これはPowerPointで作成していましたが、デザイナーがデザイン化する際に手間が多いという理由で、Adobe Illustratorを使うこともありました。クライアントにはPDFで提出します。

[取材後②]内容チェック

 記事原稿が完成したらクライアントに提出し、内容を確認していただきます。確認は基本的に以下の3段階になっていました。

  • 原稿チェック①(マーケティング担当:内容がマーケティング上の目的などに合致しているか、情報に間違いはないか、誤字脱字はないか……など
  • 原稿チェック②(営業担当・SE):営業的な視点から見て外部に発信すべきでない情報が混じっていないか、専門家の視点から見て内容に間違いはないか……など
  • 原稿チェック③(取材先):取材先から見て間違いはないか、発信すべきでない情報が混じっていないか、社名・部署名・担当者名などの表記は正しいか……など

 ①②はWordとPowerPointで確認することが多かったですが、③については、取材先のご要望などに応じて、Wordでのチェックだけでなく、デザイン化したレイアウトPDFでのチェックにも対応していました。

 全関係者のチェックを経て、狙いどおり(あるいは狙い以上)の内容であり、間違いがなくなった時点で「校了」となります。

[校了後]二次使用・水平展開

 校了後、完成したPR誌はPDFがWebサイトで公開され、同時に多くの顧客の情報システム担当者に郵送されました。

 また、必要に応じて事例ページの「抜き刷り」をして展示会や営業の訪問先で配付したり、単独のWebページやチラシ、パネルなどにリデザインすることもありました。

[次回事例に向けて]問題があれば改善策をご提案

 この案件では、数はそれほど多くありませんでしたが「難解すぎた」「説明のバランスに問題があった」など、いくつかのご指摘をいただくことがありました。PDCAの「C」に該当する部分です。

 この場合、制作チームでは改善策をご提案。常に品質向上と効果の最大化を目指していました。

[まとめ]この経験が、「営業に効く事例」制作サービスの基盤に

 この案件で培ったノウハウのほとんどが、当社がご提供している、「営業に効く事例」制作サービスに役立てられています。

 このサービスはすでに事例マーケティングを実施しているが効果に満足されていない企業が対象ですが、もちろん「新たに事例マーケティングに取り組みたい」という企業にもご活用いただけます。ぜひご相談ください。

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